ロックと黒
ここのところ曇りや雨続きだったせいか、最近はドコドコうるさいロックンロールばかり聴いています。
台風と選挙のどっちを気にすればいいのかよくわからないモヤっとした気持ちで「ブラックサンダーが大好きな安倍総理はロックだなぁ」とか考えながらふと浮かんだ疑問。
「なんでロックといえば黒色なんだろう?」
ロックな色は?ときいたら大抵の人が「黒」と答えると思います。
昔のバンドTシャツは黒色ばっかりですし、「ロックなコーディネートで来て下さい」って言われたらとりあえず上下黒い服を着て行きますよね。
どうしてロックといえば黒なのか、黒に関する曲やレコードとあわせて考えてみました。
1.Paint It Black / The Rolling Stones
Rolling Stones Paint It Black HD
ロックで黒といえばこの曲。
邦題は「黒く塗りつぶせ」。
ベトナム戦争について歌っていると言われていますが、おそらくこの曲の中での黒は「人間的でないもの」若しくは「生命力の感じられないもの」として歌われています。
I see your red door, I want it painted black
No colors any more, I want them to turn black
カラフルでピースフルなヒッピー文化の一方で、人間が戦争によって人でなしになり、色とりどりの生命力が一気に失われていくことの比喩として黒が使われています。
2.I Heard Her Call My Name / The Velvet Underground
Velvet Underground-I Heard Her Call My Name (1968) HD
ヴェルヴェット・アンダーグラウンドはどちらかというとこのバナナのジャケットの方が有名ですね。
2枚目のこのアルバムもアンディ・ウォーホールのデザインでした。
目を凝らさないとよく見えないかもしれませんが黒い背景に黒いドクロが浮かび上がるジャケットです。
このドクロはアンディ・ウォーホールの映画「BIKE BOY」に出演している俳優、ジョー・スペンサーの腕に彫られていたタトゥーだそうです。
ドクロというと、海賊旗は中世からずっと黒色で、「俺たちは危険だぞ」、「殺してやるぞ」と周囲の船に知らしめる意味がありました。
昔から死んだ後の世界は暗闇、つまり黒=死のイメージがあるようです。
ドクロや黒をこのアルバムが前作よりもノイジーで過激な音像であることを表すために使った彼らはもしかしたら海賊と同じ発想だったのかもしれません。
3.Black Night / Deep Purple
DEEP PURPLE - Black Night (1970 UK TV Performance) ~ HIGH QUALITY HQ ~
この曲はブラックの缶コーヒーのCMで有名ですね。聴いた事がある人も多いと思います。
ブラックナイトをブラックコーヒーと掛けているのは後付けの駄洒落として、この曲で黒は「夜」の事です。
そして、「夜」が表しているのは皆が寝静まった後に始まる「非日常」の事ではないでしょうか。
大昔の農民も現代のサラリーマンも日中は生活のために働いていて、また周りからの視線にも晒されている訳で、人に言えないようなドキドキワクワクはいつの時代も暗くなってから起こるものだと思います。
暗がりから何が出てくるか分からない驚怖のような、興奮のような、危険な香り。いかにもロックです。
4.The Wizard / Black Sabbath
黒といえばバンド名にもBlackが入っているこのバンド。
この怖いジャケットに加え、歌詞や曲名には悪魔、魔女、魔術などがしばしば出てきます。
ブラックサバスにとっては間違いなく黒=「邪悪なもの」。
過去記事「DEATH DISCOのススメ」にも書いたように、中世ヨーロッパの人々が暗闇には危険がいっぱいだから子供が近づかない様に「暗闇に悪魔や魔女がいる」という話を作り出したのだとすると黒に「邪悪な・怪しい」というイメージがあるのも頷けます。
5.Back in Black / AC/DC
AC/DC - Back In Black (Official Video)
黒といえばこの曲もかなり有名です。
この曲の歌詞はざっくり言うと「俺は闇に帰って来たぜ!ハハハ!」みたいな感じ。
刑事ドラマで犯罪グループが必ずと言っていいほど真っ黒な服を着ているのは、また「腹黒い」とか、「黒づくめの」とか、あいつは「クロ」だとか言うのは黒に悪(あく)の意味があるからですね。
行儀の悪さや素行の悪さを表すものとしてもロックにぴったりです。
笑っちゃうほど黒づくめなモーターヘッドのこの曲はその名も「スペードのエース」。
なんでトランプではキングが黒でクイーンが赤なのか、なんでランドセルは男子が黒で女子が赤なのか分かりませんが、黒には「男」のイメージもあります。
モーターヘッドはまさに男、というより漢のバンド。
モーターヘッドを好きな女の人には一度も会った事がありません。
Motörhead - Ace Of Spades (Official Video)
7.Shadowplay / Joy Division
ジョイ・ディヴィジョンを聴いたことがない人でもこのジャケットは見た事があるのではないでしょうか?
ただ、これから初めて聴いてみたいという人にこのアルバムはオススメできません。
なぜなら常人には到底触れられないくらい、このアルバムが暗いからです。
1970年代後半、時代は変わり、ロックバンドが歌うことも「自分と世界」という図式に変わって行きました。
孤独の境地とも言うべきこの新世代的なロックアルバムは「幸せな奴は聴くな」と言っているように聴こえてなりません。
8.SAPPUKEI / NUMBER GIRL
邦ロックで黒いジャケットといったらこのアルバム。
目まぐるしいスピードで、かつ当たり前の様に進んでいく東京という街の日常は、遠く福岡から上京した若者にとってその裏側にある世界を妄想せずにはいられないほど不安を煽るものだったのだと思います。全部冷めて見える。殺風景。
このアルバムにおける黒は物陰でうごめいている何か、「暗躍」の象徴です。
9.黒い虹 / THE NOVEMBERS
前半では泥臭いロックの話が多くなりましたが、一方で「黒は美しい」という考えもあります。
「汚れた黒」ではなく「綺麗な黒」。
グランドピアノのような、落ち着いていて、高貴で、荘厳な黒。
THE NOVEMBERSのアルバムを聴くとまさにそう思います。
因みに、ピアノが黒いのは日本だけで、海外では木目が普通だそうです。
ピアノが登場した頃、湿気の多い日本では漆塗りが使われました。
また、その後の高度経済成長で大量生産するにあたり木目は非常にコストがかかったため、ポリエステルの黒い塗装が採用されピアノといえば黒というのが定着したとか。
よくよく考えてみればロックはそもそも「黒」人から生まれたものですね。
奥が深い・・・。