オルタナティブロックについて
これだけオルタナオルタナ言ってる僕らですが、「オルタナ」、つまりオルタナティブロックがどんなロックなのかというと、これは結構難しい問題です。
というのも、オルタナティブロックが好きな人10人に「オルタナのバンドといえば」と訊いたとしたら、おそらく10人全員が違うバンドを答えるからです。
もしかすると、カート・コバーンで有名なアメリカのバンド「NIRVANA」と答える人が1番多いかもしれません。ただ、ニルヴァーナは「グランジロック」とも言われます。
じゃあNIRVANAはオルタナティブロックなのか、はたまたグランジロックなのか、いやオルタナティブロックのカテゴリーの中にグランジロックがあるんじゃないか、でもグランジロックはそもそも服装が汚らしいという意味で…
と、オルタナ好き同士のオルタナ談義はしばしば白熱するのですが、それぞれの頭の中に浮かぶ「オルタナティブロック」は案外フワフワとしていて実は定まっていません。
日本版ウィキペディアでは「広義のオルタナティブロック」と「狭義のオルタナティブロック」に分けて書いてあるほどです。
じゃあどうしてオルタナティブロックはその他のロック、例えばパンクやハードコアやジャズやクラシックやへビーメタルと違って定義が分かりにくいのかというと、その原因は、巷でオルタナティブロックと呼ぶものには実は下記のような3つがあるにもかかわらず、それらがあたかも同じもののように扱われ、同じ呼び方をされていることにあるのではないかと思います。
①イギリスのオルタナティブロック
②アメリカのオルタナティブロック
③精神性としてのオルタナティブロック
実は、英語版Wikipediaの"Alternative Rock"の項目では、イギリスのオルタナティブロックとアメリカのオルタナティブロックに分けて説明されています。
ここから少しマニアックな話になってしまうのですが、出来る限り分かりやすく書くつもりです。ひとつずつ考えてみましょう。
①イギリスのオルタナティブロック
イギリスのオルタナティブロックは、ニューウェーブという音楽ジャンルにその端緒があります。
1970年代後半、ロック音楽といえば音楽的なセンスの高いミュージシャン達が集まって長い時間と費用と手間をかけて作る大長編で超大作なものでした。
pink floyd ECHOES live at pompeii (part 1)
そんな音楽業界に中指を立てる形で、とてもシンプルで分かりやすく、なおかつ強いメッセージをもって登場したのがパンクロックです。
The Sex Pistols - No Fun - 1/14/1978 - Winterland (Official)
パンクロックの登場は、労働者階級や女性や黒人も音楽に参加できるようになったいわば「ロックの民主化」であり、ニューウェーブのバンドたちはパンクの流れに乗ってレゲエなど他の国の音楽を吸収していったのですが、英国には、その動きの中で「アメリカ音楽への憧れ」がありました。
そもそもロック自体がアメリカで生まれたものですが、ここでいうアメリカ音楽とはディスコで流れるようなファンクや熱く情熱的なソウルミュージック、そして当時革命だったヒップホップなどの黒人音楽のことです。
ところで、1960年代にビートルズやローリングストーンズをはじめとするイギリスのバンドがアメリカ国内で大ヒットした現象を「ブリティッシュインヴェイジョン」と言います。
インヴェイジョン(=Invasion)とは「浸入」という意味で、文字通りイギリスのロックがアメリカに侵入した事件なのですが、一方で1980年代には、逆にアメリカの音楽がイギリスに侵入する「アメリカンインヴェイジョン」が起きていたとイギリスのScritti Polittiというバンドのボーカル、Green Gartsideは話しています。
当時のイギリスではブラックミュージックを流すラジオ曲は少なく、黒人音楽を志向するイギリスのバンドはあくまで少数派だったといいます。
Scritti Polittiやビョークの在籍していたアイスランドのバンドThe Sugarcubesなど、黒人音楽に影響を受け、強いビートを意識していたバンドこそイギリスのオルタナティブロックと言えるのではないかと僕は思います。
また、日本ではあまり知られていない「グレボ(Grebo)」というロックのジャンルもオルタナティブロックの歴史においてとても重要です。
Pop Will Eat ItselfやJesus Jonesを聴いてもらえば、そのヒップホップとの繋がりがわかると思います。
Pop Will Eat Itself - Grebo Guru - Night Network
これらはマンチェスターでのクラブカルチャーとも相まってデジタルロックやダンスロックへと発展していきました。
②アメリカのオルタナティブロック
アメリカのオルタナティブロックはまた全く違う経緯で80年代初頭に生まれます。
1970年代末、イギリスのパンクバンドであるWireはエレキギターをそれまでとは全く違う方法で鳴らし、アメリカのバンド(特にニューヨーク)に強い影響を与えました。
Wireに代表される当時のイギリスの凶暴なサウンドは1960年代のVelvet Undergroundや1970年代のThe Modern Loversなどを通じて脈々と受け継がれていた芸術性の高い「アートロック」や、この後説明する「現代音楽」と共鳴し、Sonic YouthやPixiesはじめとした多くのオルタナティブロックバンド誕生の契機となりました。
The Velvet Underground - Sister Ray ( live at the Boston Tea Party )
the MODERN LOVERS "Modern World" 1972
「イギリスの凶暴的なサウンド」と書きましたが、パンク以前、アメリカにもWipersなど激しいギターを鳴らすバンドはいました。
しかしながら、アメリカのオルタナティブロックの成立において大切なのはそこに冷徹さや冷静さが加わったこと。
アメリカのパワフルでハードなサウンドに、緻密なフレーズや、不穏な気持ちになる不協和音がミックスされ、アメリカのオルタナティブロックは生まれたのではないかと思われます。
不協和音を生み出す変則的なギターのチューニングをする事で有名なSonic Youthの中心人物、サーストン・ムーアとリー・ラナルドは音楽大学の学生時代、グレン・ブランカという現代音楽家のプロジェクトで知り合いました。
現代音楽とは簡単に言ってしまうと理論的かつ意識的にそれまでの常識とは違う音を鳴らす音楽です。
通常ではない事を敢えてする訳ですから、ある意味これは破壊的なものです。
Sonic Youthのように、現代音楽の要素がロックに取り入れられたことによって、アメリカのロックはそれまでの音楽の常識を覆す破壊的なパワーを手に入れました。
すなわち、アメリカのオルタナティブロックの特徴は何よりもエレキギターの弾き方の革新。
チューニングを変則的なものにしたり、エフェクターという音を変える機材を無茶苦茶に使ってギターでないような音を出したり、ノイズも音楽であると捉え、敢えてちゃんと弾かなかったりと、エレキギターの扱い方についてとにかく自由であったのはイギリスよりもアメリカのオルタナティブロックです。
つまりアメリカのオルタナティブロックはそういった現代音楽とパンク以降の冷徹なイギリスのサウンドに影響を受けたものであり、そういった意味でアメリカのオルタナティブロックもまた、イギリスとの関係性なしに語ることはできません。
The Wedding Present - Granadaland (LIVE 1990)
つまり、知的なイギリスのサウンドが「ビートの重さ」を手に入れたのがUKオルタナティブロック。
ハードなアメリカのサウンドが「冷徹さ」を手に入れたのがUSオルタナティブロックだと僕は思います。
③精神性としてのオルタナティブ
うちのギターボーカルである杉森さんがインタビュー等々でよく話しているような「はぐれ者たちのロック」とか「メインストリームへのカウンターとしてのロック」というのは広義の意味になります。
オルタナ、つまりAlternative Rockの「Alternative」とは「代替の」、または「型にはまらない」といった意味ですが、ここで大事なのは、何か大きな、主流のものがあった上で、それに代わる少数派のものであるということです。
かといって、主流のロックの方が良いけれど、その代わりにこっちのロックで我慢するというようなマイナスの意味はありません。
「代替案」を英語で「Alternative Plan」と言うように、「Alternative Rock」とは今あるロックではなくそれとは別のロックというだけで、それらはあくまで対等の立場です。また、これからメインストリームに取って代わっていく、という意味も含まれます。
実際、はじめは小さな動きだったイギリスのオルタナティブロックもアメリカのオルタナティブロックも、その後大きなムーブメントとなり世界を席巻しました。
音楽のジャンルなんていうものは全て後付けで決められるもの。
人間の自由な発想で新しく次々と生まれてくるものに対して、これは何々の派生だとか、何々に似ていると言ってカテゴライズするのはいつだって第三者です。
カテゴライズされなかった、というよりもその速さに追いつけず、「カテゴライズできなかった」この2つのオルタナティブロックに共通するのは、とても自由で、常に新しいものを求め、少数派でも確固たる自信をもって鳴らされていたということ。
これが流行りだとか、普通はこうだとか言われても「知らねーよ、僕はこれが好きなんだ。」と言えるパワー。
それが僕のオルタナティブ・・なのか・・・