シューゲイザーのレシピ
1990年代初頭に「シューゲイザー」というロックのムーブメントが起きました。
ここのところ、Lush、Ride、Slowdiveと名だたるシューゲイザーバンドの新譜がリリースされてまた盛り上がってますね。
シューゲイザーは英語で書くとShoegazerで、Shoeはシューズのシュー、gazeは「じっと見る」という動詞なので、直訳すると靴を見る人。
ライブ中に客席ではなく自分の足元ばかり見て演奏する事からそう呼ばれるようになりました。
僕が1番好きなシューゲイザーバンドはPale Saintsです。
色々な定義があると思いますが、勝手にシューゲイザーの要素を考えたので一つずつ書きたいと思います。
①ネオサイケデリア
②ヒップホップ
③エコー/リバーブ
④フィードバック
⑤ウィスパーボイス
⑦耽美主義
①ネオサイケデリア
1960年代後半に、クスリをキメてアドリブで延々とドコドコドコドコ演奏するサイケデリックロックが流行しました。
その世界観は、「くまのプーさん」の夢の中でカラフルな象がたくさん出てくるシーンを思い浮かべてもらうといいと思います。
シューゲイザーが登場するよりずっと前ですが、The Byrdsのこの曲は既にシューゲイザーの雰囲気を持っている気がします。
サイケデリックロックはその後、複雑で緻密なプログレッシブロックへとつながっていって、聴き手からすると少し難しいものになりますが、過去記事でも書いたように、1970年代後半のパンクロックによって世の中が「音楽ってもっと簡単なものだよね!」という流れに変わります。
それによっていくつもの自由なバンドが登場しますが、その動きの中でEcho and the Bunnymenなど、内向的で暗く、陶酔するようなサウンドのバンドが生まれ、サイケデリックロックのリバイバルとして「ネオサイケデリア」と呼ばれました。
シューゲイザーロックはこの流れの中にあって、その根本にはクラクラするようなサイケデリックロックがあるように思えます。
②ヒップホップ
一方で、80年代に録音(サンプリング)した音やリズムボックスを多用したヒップホップが流行しました。
それまで、楽器はその場で演奏するものだという考えが普通でしたが、ヒップホップは楽器の音を「素材」として取り出してボタンひとつで鳴らせるようにし、重ねたり切り貼りしたり無機質に繰り返したりと「机の上で操作できるもの」に変えました。
今では当たり前のことですが当時は画期的だったはず。
シューゲイザーもそれに近いものがあります。
下の曲のように、何重にも重ねられたエレキギターは楽器の音というよりむしろベターっと塗られたテクスチャー、つまりこういうもので、
歌いながら爪弾くようなそれまでのギターの概念とは明らかに違います。
その証拠に、アンビエントやハウス・テクノ等の世界で活躍するソロアーティストにはシューゲイザーバンド出身の人が数多くいます。
元から音に対する感覚が独特なんですね。
③エコー/リバーブ
エコーやリバーブはトンネルや教会の中で演奏しているように、音をキラキラと響かせるエフェクトです。
シューゲイザーバンドは並べてこのエフェクトを使いました。
音を水彩画のようにぼやかすリバーブの効果はドリーミーなシューゲイザーサウンドに欠かせない要素と言えます。
1979年に結成されたコクトーツインズのリバーブサウンドは革新的で、シューゲイザーサウンドの誕生に大きく貢献しました。
Cocteau Twins - Pandora (For Cindy)
夢の中にいけますねー
④フィードバック
初めて聴いたら事故としか思わない、ザ・ジーザスアンドメリーチェインのこの曲を聴いてみましょう。
The Jesus And Mary Chain - You Trip Me Up (Official Video)
もうずっとやかましくてうるさいですが、ハマる人にはある瞬間、「ん?ちょっと気持ちいいかも」と思えてきます。
エレキギターのフィードバック(簡単に言えばマイクのハウリングのような現象)がシューゲイザーでは奏法のひとつとして多用されます。
ギターを敢えて「弾かない」という「弾き方」……
禅の世界です…
⑤ウィスパーボイス
子守唄を全力で歌うお母さんはたぶんいません。
囁くように夢の中へ夢の中へ…
イギリスのシューゲイザーバンド、Lushは特にその幻想的なコーラスが特徴的です。
この脱力感も重要な要素です。
シューゲイザーの代名詞と言っても過言ではないこのジャズマスターはシューゲイザーの時代よりもずっと前、1958年に発売されたフェンダー社のギターでした。
元々は名前通りジャズ向けに開発されましたが1960年代にはなぜかサーフミュージックでよく使われていました。
1980年頃に一度生産中止になっていたにも関わらず、なぜこのギターがシューゲイザーで使われたのかを考えると、かなり専門的な話になる気がするのでめちゃくちゃざっくり書きます。
⑴トレモロアームがある
⑵スケールが長い
⑶フローティングブリッジ
⑷シングルコイルピックアップ
要するに
⑴グイングインできて
⑵ダルンダルンな音で
⑶ビヨンビヨンな音で
⑷ノイズが出る
うん…シューゲイザー向き…。
Sonic Youthはライブに10何本もジャズマスターを持ち込むことで有名です。
⑦耽美主義
絵画など、芸術の世界に登場するこの概念は文字通り「美に耽(ふけ)る」作風を表すものです。
政治や宗教とは無関係にただ単純に美だけを求める芸術思潮。
つまり、
「伝われこの俺の思い!」とか
「みんなこうだろ!こうしろよ!」というメッセージを完全に取り払って
「ああ・・きれいだなぁ・・」という作風のことです。
シューゲイザーあるあるで、
「kiss」「 moon」「 honey」「 kill」など、ちょっとエロこわいワードが曲名や歌詞にしばしば出てきます。
景色の描写もとても多いですね。
サウンドだけでなくこういった歌詞の世界観もシューゲイザーをシューゲイザーたらしめる要素だと思います。
まさに「理由なんて聞かないで」。
My Bloody Valentine - Don't ask why
そしてシューゲイザーはOasisやBlurなどブリットポップの波に飲まれていきますが、サウンドとしては音楽の歴史に偉大な可能性をもたらしました。
個人的にRideのこの曲はシューゲイザー最後の置き土産だと思ってます。
こんなシューゲイザー。
これから梅雨の時期、部屋の中や傘の中にこもってまったり聴くのにおすすめです。