四つ打ちと心臓

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https://youtu.be/vcS17lqphXQ

 

初めてクラブに行った時のこと。

数年前、代官山のAir石野卓球が出る日だった。

それまで、バンドとDJが一緒になったものや知り合いが企画した小さなイベントにしか行ったことがなく、プロのDJを見たのはそれが初めてだった。

 

深夜12時を過ぎた頃、ほとんど人のいない静かな代官山の路地を抜けて一見ただのレストランに見えるガラス張りの建物の中にある、なんともセキュリティの過剰なエントランスを通って地下に降りる。

 

ドアを開くとそこは天井の低い薄暗い空間になっていて、様々な年代の男女がひしめき合っている。みんなそれぞれ服装はバラバラ。立ち話をしたり、座ってお酒を飲んでいたり、いちゃいちゃしていたりふざけあっていたり、見たことのない光景だった。

人混みをすり抜けフロアまでたどり着くと、そこは一転してだだっ広く天井の高い空間。ほとんど真っ暗で、点滅するストロボがパッとついた瞬間だけ周りを確認できる。

人間の体より大きなスピーカーが四方に何個も積まれていて、天井は照明が何色も流れるようにアーチ状に光り、なおかつ奥の壁と手前の壁で合わせ鏡になっているのでその光が無限に何処までも続いていくように見える。

フロアにも人がたくさん。踊っている人、目をつぶってただ聴いている人、耳打ちで話をしている人、酔っ払いきってぐったりしている人が入り乱れ混沌としていて、その光景がストロボが切り替わるごとに少しずつ変わっていくのが分かった。

一番奥のステージには石野卓球。普通のライブハウスのステージよりも少し高いところにDJブースがあり、大きなスピーカーと機材に囲まれて何か作業をしている様子はDJというよりも大型戦艦の操縦士だ。

四隅のウーファーから

ボンッボンッボンッボンッボンッボンッボンッボンッと

ダークなベース音が鳴り続け、鼓膜ではなくお腹の下あたりに響く。その上のギラギラとした装飾音や カンッカンッカンッ という甲高い打楽器の音は境目が分からないほどゆったりと変わっていく。

最初は四方から聴こえるその爆音をうるさいと思ったが、せっかく来たのだからと真ん中の端の辺りまで進んで、壁にもたりかかりながら過ごすことにした……

 

10分経ち、20分経ち、いつの間にかその異様な音と光景を見よう、聴こうとする気持ちはどこかに消えてしまった。

バンドが好きな人でも、良いライブを見ている途中に没頭してしまって、ふと我に返って「今、自分は何も考えてなかったな」と思うことがあると思う。クラブはたぶん、その瞬間をずっと持続させる場所だ。ぼくはその音を聴いているというよりも音の中にいて、音と自分とその他全部が一緒になってどこかに行ってしまうような、そんな体験をした。

そこで聴いたクラブの四つ打ちは心臓の拍や、歩くテンポと一緒で人間が大昔から慣れ親しんでいるもの。どこまでも同じテンポで鳴り続けるベース音がぼくの細胞の奥の生命力に直接働きかけた…

……ドゥンッドゥンッドゥンッドゥンッドゥンッドゥンッドゥンッドゥンッドゥンッドゥン………

ここは宇宙の中で…全員のコア的なものが合体して大きいゴムまりになって…ボンボンボンボン跳ね回っているような気分…

 

嘘ではなく本当に、次に気が散って飲み物でも買いに行こうかなと思ったのはフロアに入ってから1時間45分後だった。それも、知らない人に肩を叩かれ、話しかけられたからだ。

初めてのトリップ体験を見ず知らずの人に邪魔されたことにイライラしつつもその場を終えて、ドリンクカウンターの辺りを歩き、それぞれの友人、恋人同志でだらだらする人達を眺めているとだんだん我に返ってきた。

 

1人で楽しもうとしてる方が少数派なのか…。 

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